成人の百日咳が益々増えているのは昨年と同様で、季節変動がなくなり通年性に移行していると感じています。他院で「かぜ」と診断されて抗生剤や咳止めを1か月以上内服しているのに咳が続くと困り果てて当院を受診される方も増え続けています。当院の漢方薬治療で3日以内に咳嗽が1/3程度に改善し、その薬効に驚かれることも珍しくなくなりました。

以前もお話したように、先進国(米国、カナダ、イギリス、オーストラリアなど)ですら成人の百日咳罹患者の集団発生は毎年のように報告されており、日本も決して例外ではありません。百日咳の全例報告が義務付けられて以降、成人の罹患者が増えているとの報道がありますが、これは海外と同様の現象で特に珍しいことではありません。と言うより、成人の百日咳はかなり蔓延しcommon diseaseに近い発病率で、確定診断を得た症例は氷山の一角ではないかと私は考えています。

私が危機感を抱いている日本の最大の問題点は、百日咳の低年齢化が進んでいることです。数か月前までは7-8歳の罹患者が多かったのですが、最近1か月間で4歳代の罹患者が急増しています。ワクチン接種後の百日咳罹患者の最低年齢も3歳1か月に更新されました。5歳まですらワクチンの効果が持続しないケースがかなり増えているようです。
現在日本では4種混合ワクチンを4回しか接種していませんが、海外同様に5-6歳で5回目、11-12歳で6回目の追加接種を早期に導入しないと、百日咳の低年齢化は益々進んでゆくことが示唆され、0歳児の百日咳罹患リスクは更に高まることが予想できます。なぜなら、両親よりも同胞から移る可能性が高いからです。

現在の百日咳ワクチンは、PT(百日咳毒素)とFHA(繊維状赤血球凝集素)と言う抗原を利用して作られていますが、当院での複数回罹患者(2回以上百日咳を繰り返した症例)の検討から、百日咳に罹患してもPTやFHAが上昇しない症例や、一度百日咳に罹患してPT-IgG抗体が400EU/ml以上であったのにも関わらず、10か月後には10未満となり2度目の罹患者となった症例もありました。果たして今の百日咳ワクチンの接種回数を増やすことだけで今後の流行が抑制できるのか甚だ疑問を感じている今日この頃です。
小児への接種回数を増やすことは一刻も早く着手すべきですが、それだけでは足りないのではないか、と言うのが現在の一開業医からの提言です。

咳が1週間以上続く場合、それは「かぜ」ではありません。夜中に咳で起きてしまう場合、咳き込んで嘔吐してしまう場合、一度出始めるとしばらく続く咳などは、百日咳を強く疑います。早期に医療機関への受診をお勧めします。その際、「かぜ」と言われても食い下がって辛い症状をきちんと伝えましょう。それが自分やお子さんを守ることにつながります。
本来であれば医療者がもっと百日咳を強く疑うべきなのですが、大きな病院の呼吸器専門医や小児科専門医ですら、まずは死に至る病気(肺がん、結核、肺炎など)の診断を優先しがちです。それが問題ないとなると、「かぜ」とか「気管支炎」とか「咳喘息」と言う診断で、漫然と咳止めが処方されるケースが多いと感じます。
百日咳は特殊な病気ではなく、比較的頻度が高いcommon diseaseであることが医療者に周知されるように、今後も国内外で学会発表を続けてゆきたいと思っています。