溶血性連鎖球菌感染症(以下、溶連菌と略します)が小児だけではなく大人にも数多く流行していることは、少しずつ認知されるようになってきました。が、一般的に考えられているよりもずっと多くの溶連菌が見逃されていることを、日本内科学会、日本感染症学会などで報告し警鐘を鳴らしてきました。

溶連菌は扁桃腺が腫れて高熱があり、激しい咽頭痛がある、と教科書にも書いてありますし、医者も患者さんもそう思っている方が多いのが現状です。今回、当院で溶連菌と診断を受けた637名、対象年齢0歳から80歳(中央値9歳)の症状と診察所見をまとめ、2018年5月31日から6月2日まで岡山で開催される、第92回日本感染症学会で口演発表する内容をお知らせします。

38.0℃以上の発熱 29.8%
咽頭痛 41.0%
頭痛 34.4%
全身倦怠感 24.2%
悪寒 6.0%
関節痛 4.4%
腹痛 20.9%
はきけ・嘔吐 15.7%
下痢 17.0%

 

咽頭所見では、著明な発赤・扁桃腫大は7.7%、咽頭発赤は20.2%で、残る72.1%は全く正常範囲内でした。

上記を見ると、「インフルエンザ」や「急性胃腸炎」と間違えられてしまう理由が良く分かると思います。のどが痛くない、のどが赤くない溶連菌感染症はたくさん存在します。吐いて下痢をする溶連菌もあり、溶連菌による集団食中毒の報告もあります。

ここで私が注目しているのは、咽頭痛に次いで頭痛が多いと言うことで、大人に限ると45%の症例で強い頭痛を感染初期に訴えます。この頭痛は片頭痛と同じ頭痛であることを漢方薬治療を用いて証明し、2017年の国際頭痛学会と日本頭痛学会で発表しました。咽頭痛に加え激しい頭痛を伴うときには、大人の溶連菌の可能性が高いと感じています。インフルエンザ検査が陰性、のどが赤くないから「カゼ」、と決めつけるのは避けたいものです。

溶連菌は「人喰いバクテリア」としても有名です。重症化するのはごく一部の患者さんですが、致死率が非常に高いことが知られています。当院でも昨年2名の患者さんを早期発見して病院紹介し、一例は筋膜切除術で、もう一例は入院での抗生剤点滴でお元気になられ、ご本人、ご家族にも喜んでいただけました。

大人の溶連菌は放置しても治る、抗生物質をむやみに使用するのは良くないと言う考え方もあるようですが、重症化した症例を見ると、決して侮れない感染症だと思います。

カゼ症状は放置で治るとは限らない。カゼは万病のもと。いつものカゼとは違うと思った時には、病院受診をお勧めします。感冒症状の初期には漢方薬治療が良く効くのですが、その話はまたの機会に。