当院では、感冒症状をカゼと決めつけずに原因の検索を厳密に実施するようにしています。
新型コロナウィルス感染症を始め、どんな重篤な疾患であっても、最初は「カゼ」の症状から始まります。溶連菌感染症は以前には子供だけの疾患と思われていましたが、当院の学会発表や論文によって、大人も数多く罹患することが認知されてきました。のどが赤くない溶連菌感染症が70%、発熱のない症例も70%、咳や喘息を合併する症例も50%以上、胃腸炎症状も約20%あることから、多くの溶連菌感染症が見逃されていることに警鐘を鳴らしてきました。臨床症状の組み合わせが非常に大切であることに注目し、現在、他の疾患との鑑別方法を検索中です。

そして、診断に多用される溶連菌感染症の迅速検査について、ピットフォールが幾つかあるため、その注意点を以下にお知らせしたいと思います。

まず、インフルエンザの迅速検査の場合には、製造会社ごとの精度の差はさほど大きくはありません。ところが、溶連菌感染症の迅速検査は製造会社ごとの精度の差が大きいのが特徴です。溶連菌迅速検査キットはたくさんの会社から販売されていますが、精度が高い製品は2社のみで、キットの選定がとても重要です。日本の保険診療では、検査代金は保険で決められていますから、通常はなるべく安価なキットを使用されるケースが多いと思います。当院では精度の高い、その分、値段も高い米国製のキットを使用しています。今年の4月以降6歳未満の検査費用は保険請求出来なくなっているので、溶連菌迅速検査に限らず、インフルエンザ、RSV、hMPV、果ては血液検査も当院持ちで実施しています。全ては正しい診断へ導くために、例え当院からの持ち出しになっても必要なお金はきちんと掛ける方針で当院は運営しています。

次に重要なのが検体採取時の手技です。咽頭部を擦過する時に(綿棒でこする時に)口蓋垂の裏をちゃんと擦過しているか否かがとても重要です。ちょこちょこっと喉を擦過しても、十分量の検体が採取できず、陽性となる確率は下がってしまいます。

溶連菌検査「陰性」の場合、先ずはキットの選定が妥当か否か、検体の採取方法が妥当であるか否かの再確認が重要となります。

新型コロナウィルス感染症のPCR法、臨床検査で最高位にある検査ですが、その陽性率ですら70%程度で、30%の症例はコロナ感染症に罹患していても「陰性」と判定されますが、この「陰性」は「コロナ感染症ではない」と言う意味ではなく、他者に移すほど多くのウィルスが咽頭部や唾液内には居ない、と言うことを意味します。
溶連菌感染症迅速検査が「陰性」だった場合も同様で、「陰性」=「溶連菌感染症ではない」と言うことではなく、他人に移すほど多くの溶連菌(細菌)が咽頭部にはいない、と言うことを意味します。当院では「陰性」だった場合、抗生剤は不要なので漢方薬治療を実施しています。感冒であれば漢方薬は著効します。

ただし、検査が「陰性」であっても臨床症状から強く溶連菌感染症を疑う場合には、患者さんにそれを説明し同意のもと抗生物質を処方します。その時に、「治療的診断」の説明をしています。すなわち、溶連菌感染症の場合、抗生剤投与24時間以内に直ぐに症状が改善するため、翌日直ぐに症状が良くなった場合には、迅速検査は「陰性」でも溶連菌感染症であった可能性が高い、と言うことになります。普通のカゼは1日では治りませんから、治り方によって溶連菌か否かを後から判定でき、これを「治療的診断」と言います。

迅速検査の陽性の線が見えるか、見えないか、で悪意のあるネット書き込みをする輩たちがいますが、専門家の意見に沿えない場合には、ご自由に他の医療機関を受診されることをお勧めします。当院はカゼと言われ続けて困り果てて遠方からいらっしゃる患者さんと、かかりつけ医として信頼して下さっている数多くの地元の患者さんの診療をこれまで通り続けてゆく所存です。