2020年11月半ば以降、時季外れに片頭痛の患者さんが急増しています。本来であれば寒い時期に片頭痛発作は減り、2月半ばの春一番以降、暖かくなるにつれて発作が増えるものですが、最近は1年中、片頭痛の患者さんが遠くから来院されます。近年の気圧変動が大きいことがその原因ではないかと推量しています。

片頭痛の特徴は、拍動性(ズキンズキン)と体動時の悪化(身体を動かすと頭痛が悪化する)です。が、片頭痛の症状は頭痛だけとは限りません。
片頭痛で一番多い症状、実は「肩こり」「首凝り」だと言うことをご存知でしょうか。一般的に肩こりから来る頭痛は「筋緊張性頭痛」と呼ばれていますが、普通の肩こりは痛み止めや湿布で治ってしまうので、医療機関を訪れることは殆どありません。

当院では漢方薬治療(五苓散と呉茱萸湯の同時投与)で5分から10分で片頭痛の痛みを取り除くことが可能なので、漢方で「肩こり」「首凝り」が消失すれば、簡単に片頭痛と診断できます。片頭痛の「肩こり」は首も同時に凝っていることが多く、全身倦怠感(だるさ)やあくび、ひどくなると吐き気を伴うことも特徴です。このタイプの患者さんは、冷え性で胃が弱い方が多いので、消炎鎮痛剤は効果がないばかりか、かえって胃の調子を崩してしまうので、痛み止めの使用は控えるべきです。

米国の片頭痛治療ガイドラインでは、小児や妊婦さんの片頭痛治療薬として、アセトアミノフェンやイブプロフェンを勧めています。が、アセトアミノフェンはせいぜい10歳前後で、イブプロフェンも15歳を超えると殆ど効果がなくなります。西洋薬の急性期治療薬としてトリプタンが有名ですが、使い過ぎによる薬物乱用リスクや、妊婦さん或いは12歳未満には使用できないなどの制約があります。

漢方薬は、小児・青年期、妊婦さん、授乳中の女性に対しても投与が可能です。そして一番の強みは、体質改善効果によって片頭痛発作が徐々に減少してゆく現象が認められることです。初診時は頻回な片頭痛発作を起こしていた患者さんが漢方治療が奏功すると発作の頻度が減少し、頭痛時屯用のみ使用することで、2週間処方して2年間来院せずに済むようになるケースもあります。漢方薬を使用すればするほど発作が減り、薬を必要とする回数も減ってゆくと言う経過は、患者さんにとっては勿論、医療経済学的にもとても魅力的だと考えています。

肩こり、首凝りの次に多い症状は、倦怠感、脱力感、あくびです。知覚過敏で光や音に敏感になる(光を眩しく感じる、テレビの音がうるさい、など)症状を併発することも多いです。これらの症状も漢方治療で10分以内に効果があれば、片頭痛による随伴症状と確定できます。片頭痛の随伴症状として閃輝暗点(せんきあんてん)が有名ですが、せいぜい2-3割の患者さんに認める程度で、私が診断を下す際には参考程度にしています。

ちょっと変わった症状、特にお子さんに多い症状として、腹痛も時折遭遇する症状です。「腹部片頭痛」と言う疾患があるのですが、頭痛と腹痛が同時に起こるタイプ、腹痛のみのタイプがあります。頭痛と腹痛が同時に起これば「腹部片頭痛」を疑うことは容易ですが、頭痛がなく腹痛だけのタイプでは診断がとても難しいです。お子さんの腹痛の約80%は便秘が原因と言われるくらいですから。が、これまた漢方治療を用いることで、腹痛だけの「腹部片頭痛」も簡単に診断ができます。すなわち、漢方治療で腹痛が直ぐに消失すれば、便秘ではなく片頭痛による症状と言うことになります。

最後に、「前庭性片頭痛」についても説明をしておきましょう。これは、めまいを伴った片頭痛で、最近成人にとても増えている印象があります。やはり気圧変動の影響を強く受けているのだと推量しています。頭部MRI検査やめまい外来などで異常なしとされている方で、めまい、肩こり、首凝りがある方は頭痛外来の受診が必要かもしれません。

片頭痛には色々な種類があります。肩こりから来る頭痛だから片頭痛ではない、とは限りません。長く続く肩こりや首凝り、周期的にだるくなりあくびが出る、腹痛やめまいが起こる症状も、片頭痛の可能性があります。漫然と頭痛に対して鎮痛剤を飲むのではなく、漢方薬治療(五苓散と呉茱萸湯の同時内服)をお試しすることをお勧めします。当院では漢方薬治療以外にも、西洋薬として塩酸ロメリジン、トリプタン(点鼻、内服、注射剤)なども併用して、「ハイブリッド頭痛治療」を実践しています。片頭痛は漢方薬で治そう、が当院のモットーですが、ベストな治療を目指して今後も治療法を進化させていく所存です。