「カゼ」の診断が一番難しい

(2021年2月5日掲載)

新型コロナウィルス感染症(以下、新型コロナと略します)や「カゼ」に限らず、溶連菌感染症、百日咳、肺炎、インフルエンザなどにおいても、最初の症状は咽頭痛(のどの痛み)、鼻汁、鼻閉、全身倦怠感(だるさ)、寒気、関節痛などから始まります。
「カゼ」は殆どがウィル性疾患であるため、西洋薬(抗生物質、解熱鎮痛剤など)は全く役に立たず、漢方薬治療がとても有効です。市販のカゼ薬や西洋薬はただ単に5-6時間症状を緩和するだけ、根本的な治療にはなりません。それどころか、発熱は身体が免疫力を高めてウィルスなどの外敵を駆逐するための防御反応なので、解熱することでかえって外敵を勢いづかせ病状が悪化することがあり得ます。
漢方薬は必ずしもすぐに解熱はしない代わりに、より免疫力を高めることで患者さんを元気にしてくれます。熱はあっても身体は楽になり食事も取れるようになります。不必要に解熱させないことは、感染症治療ではとても大切なことです。ただし小児の場合には、グッタリしてしまって水分が取れないと直ぐに脱水に陥ってしまうため、38.5℃以上を目安に解熱剤を使用します。ただ、これは解熱している間に水分を取らせる、或いはぐっすり眠らせてあげる目的のみで投与しているに過ぎません。当院では、お子さんが元気であれば40℃を越えてからの解熱剤投与を勧めています。

新型コロナの発生・流行から1年が過ぎました。当院では、以前から溶連菌感染症や百日咳の早期発見に取り組んでいたため、単なる「カゼ」か他の感染症か、漢方薬を用いた鑑別方法を何種類かのパターンで駆使し診断に役立てています。すなわち、「カゼ」であれば漢方薬投与で2日以内に治すことが出来ますが、効果が乏しい或いは全くない場合には、迅速検査、尿・血液検査、画像診断、PCR検査などを用いて正しい診断に到達できる努力をしてゆきます。症状だけで「カゼ」と決めつけるのはとても怖いと常に感じています。

家庭医にはもう一つ強力な武器があります。それは来院時の患者さんの表情です。いつもと違う辛そうな表情であれば、最初から色々な検査を進めることが可能で、日頃の顔を知っていることのメリットはとても大きいと常に感じています。お母さんがお子さんを連れてくるときに「子供の様子がいつもと違うんです」と言う場合には、やはり大きな病気が潜んでいることが多いのと似ている感覚です。日ごろを知っている人から見た「いつもと違う」は、数値化はできなくても、疾患の早期発見にはとても重要だと思っています。

小学校 5 年生 T 君からのプレゼント
研究レポート「家にある漢方薬が気になった」

(2021年1月25日掲載)

当院にかかりつけの小学校5年生T君が、冬休みの宿題「調べる学習」で提出したレポートを私にプレゼントしてくれました。タイトルは「家にある漢方薬が気になった」です。センスが良いですね。大上段に構えずフワッとしていて私のお気に入りのタイトルです。
その内容は詳細で素晴らしく良くまとまっている上に、最後に参考文献まで記載があり、高校生レベルの研究レポートにとても感銘を受けました。以下、内容をかいつまんでご披露します。
総論として、漢方薬の歴史、遣隋使・遣唐使によって中国から日本に伝えられたこと、西洋医学(蘭方;らんぽう)との違い、漢方薬が生薬(しょうやく;自然界にある植物、動物、鉱物由来)の組み合わせで構成されていること、薬品名の規則性についてなどなど、とても詳細にまとまっていました。その後、各論として家にある漢方薬を一つずつ挙げて、構成生薬、どの様な病態に効果があるのかまで、とても良く調べてあり、本当にすごい!!と感動しました。
以下は、本文そのままをご披露します。漢方薬の特徴、この研究の意図がとても上手に表現されていると思います。
「漢方薬の特ちょう」;漢方薬は、ひとつの薬でもさまざまな症状に使える。それは、病気の背景となっている体のバランスの悪さを良くするのが、漢方医学の基本的な考え方だからである。
「あとがき」;かぜをひいて病院へ行ったとき、漢方薬を処方されたのが調べようと思ったきっかけでした。漢方薬をのんでいるのは、ぼくだけじゃなく、母や祖父も飲んでいました。むずかしい本ばかりで、調べるのはけっこう大変でした。でも知ってみると面白かったです。漢方はたくさんあるので、もっともっと知りたくなりました。

開業医になって15年が過ぎました。ご家族全員を拝見できることはファミリークリニックの醍醐味です。当院では、西洋薬に加えて漢方薬を用いることで、西洋薬では治せない病態も治せることが増えました。「カゼ」はウィルスが原因のことが多いので、西洋薬の抗生物質は全く効果がなく漢方薬の独壇場です。新型コロナウィルス感染症も現状特効薬は数少なく、病初期であれば漢方薬の有用性が当院の治療経験からも判明しつつあります。
2000年の歴史を持つ漢方薬がなぜ効果があるのか、いまだに分からないことも多いのですが、T君に負けないように今後も治療法の進化に精進してゆきたいと思っています。
T君、立派なレポートありがとう。

葛根湯を感冒初期に投与する意義について

(2019年5月7日掲載)

葛根湯は誰もが一度は聞いたことがある漢方薬の名前ではないでしょうか? 葛根湯は感冒初期に投与することでとても効果があります。一方で、感冒の予防には効果がなく、タイミング良く内服して、体調が戻ったら直ぐに内服を中止するのが正しい内服方法です。
葛根湯は頻用されながらもその有用性が統計的に証明されたことがなく、昨年6月の第69回日本東洋医学会で優秀演題に選ばれ、2019年2月25日号の「漢方と最新治療」に掲載された、当院での葛根湯の統計学的有用性についての論文を以下に概要をお知らせします。

感冒症状の初期に葛根湯を内服することで、溶血性連鎖球菌感染症の迅速検査の陽性率が約60%も低下することが、当院でのデータ解析で判明しました。葛根湯が溶血性連鎖球菌の増殖を抑制していることが推量され、葛根湯がワクチンの様に自己免疫能を高めていることが示唆されました。その効果は60歳未満で顕著であることも併せて判明し、小児にもとても効果があることが分かりました。葛根湯はインフルエンザやウィルス性胃腸炎の初期にも効果があり、内服のタイミングがとても重要となります。
一方で、60歳以上の感冒には、東洋医学的な診察所見を経てからの処方決定が良さそうであり、東洋医学に精通した医師を受診することが肝要と思われます。

たかが「カゼ」と思うかもしれませんが、百日咳や肺炎、溶血性連鎖球菌感染症なども、初期は感冒症状から始まります。当院では、2日間葛根湯を内服しても症状の改善が認められない時には、クリニック受診を強くお勧めしています。

私見ですが、医療者から診ると感冒(カゼ)の診断が一番難しいと常に感じていて、他の疾患の見逃しがないように、細心の注意を払って患者さんを拝見するようにしています。
感冒症状が続く場合には、「この程度で病院?」と遠慮されずに医療機関への受診をお勧めします。「たかがカゼ、されどカゼ」。解熱鎮痛剤だけ内服して様子を見るのは避けたいものです。感冒の初期治療には漢方薬がおススメです。が、2日間で効果が認められない時には、医療機関を受診しましょう。

漢方薬治療

2021年2月5日 「カゼ」の診断が一番難しい
2021年1月25日 家にある漢方薬が気になった
2017年6月28日 印象に残る症例②
2017年6月14日 印象に残る症例①