この一年間で当院の臨床経験で判明したことは、以下の4点です。
(詳細は2020年4月の日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本小児科学会で発表予定ですが、百日咳急増ゆえに、早期に情報提供することを決断しました。)

まず一つ目は、百日咳を複数回罹患する症例が存在すると言うことです。百日咳は一度罹患すると二度と罹患しないと思っている方が多いと思います。百日咳は百日咳菌とパラ百日咳菌の2種類が起因菌となるため、2回罹患する可能性は誰にでもあり得ます。しかしながら、当院での早期診断方法によって、3回罹患した症例が5例以上、2回罹患した症例も25例以上あることが証明されました。他の疾患でも二度掛かりはあるので決して不思議なことではありませんが、ワクチン接種の限界、免疫反応のバリエーションなどが示唆されます。

2点目は、罹患者の男女比です。百日咳罹患者は圧倒的に女性が多い(男性3:女性7)ことが判明しました。が、不思議なことに15歳以下では性差を認めませんでした。この男女差は16歳以上で顕著と言うことになります。パラ百日咳菌による百日咳は男女比に有意差を認めませんでした。

3点目は、2年前と昨年1年間の治療法の比較(発症から当院初診までの期間は平均約10日で有意差なし)で、初診から治療開始までの期間は平均3.5日短縮、確定診断までの期間は平均4.1日短縮、治療終了までの期間は5.3日それぞれ短縮することが出来て、当院初診日から平均12.3日で治療を終了することが可能となり、治療期間が2週間を切ることが出来ました。当院における早期診断・早期治療が進化している証左と思われます。

最後に4点目は、せき治療の変化です。以前のコラムでご説明した様に、百日咳のせき治療は漢方薬治療が有効で、抗生物質は他者への感染を予防しても咳を止めることはできません。2年前と昨年1年間で治療に用いられた漢方薬を解析したところ、使用する漢方薬が少しずつ変化していることが判明しました。年齢によって使用する漢方薬も変化しており、治療法の工夫も挙げられますが、百日咳菌の変異の可能性もあると感じています。治療法は一つに決めつけずに、患者さんの咳の状態を見ながら調整することが必要になっていると感じています。

百日咳の症状はかなりバリエーションがありますが、咳の仕方を聴くことである程度予想ができる様になってきています。1週間以上続く咳は放置しないこと、0歳児や妊娠されている方がいらっしゃるご家庭では是非お気を付け頂きたいと思っています。