百日咳の急増で、院長の危機感から最近ブログ更新が増えています。百日咳の常識と言われていることが、かなり現実と異なる、と言うことが判明しつつあるので、今回は、以下に「リアル百日咳」をご披露したいと思います。

① 百日咳は「カタル期」から始まる、はウソ。
どんな教科書を読んでも必ず、百日咳は「カタル期」から始まると書いてあります。カタル期とは、咳が出る前に咽頭痛、鼻水や鼻づまりなど感冒症状を呈する1週間程度の期間を指します。しかしながら、これは百日咳の免疫が全くない新生児が罹患した場合のみで、現在の百日咳でカタル期を見掛けることはまずありません。
その理由は、学童期以降成人まで、ほぼ全員が百日咳ワクチン接種を受けているからです。ワクチン接種を受けた方が百日咳に罹患すると症状が修飾され、カタル期を経ずに最初から咳が出るケースがほとんどだと感じています。咽頭痛や鼻汁が1、2日出て、その後一気に咳が悪化するケースも多く、このパターンの際には「かぜ」と診断されるケースがとても多い印象です。
今年の日本呼吸器学会総会で、百日咳に関する発表が私の他に2名の先生(静岡県と沖縄県)がされておられましたが、お二人の先生方も、「成人の百日咳はカタル期がないよね」と私と同意見でした。これは、幼児、学童期の百日咳も同じです。
ワクチン接種後の百日咳は、カタル期を経ないで発症する、が新常識です。

② 百日咳は夜に咳が悪化する、とは限らない。
夜に咳が悪化する疾患は百日咳だけではありません。数的には圧倒的に気管支喘息が多いと思います。当院では、喘息の咳か、百日咳の咳かを切り分ける方法があるので、比較的簡単に診断を付けることができます。
当院のデータでは、百日咳(百日咳の疑いを含めた)753名の内、夜間の咳嗽は62%に認めたのみで、逆に言うと、38%の症例は夜ぐっすり眠れていると言うことになります。実際に昼間に咳がひどくて夜は大丈夫と言う症例も多く認めます。
百日咳は夜間の顕著な咳嗽が有名ですが、夜眠れる患者さんもいる、が新常識です。

③ 百日咳は咳だけが症状とは限らない。
咳が最多の症状であることは間違いありません。教科書によっては痰の絡まない乾いた咳との記載がありますが・・・、先ほどの753名のデータでは以下の通りです。
痰がらみの咳;79.5%
スタッカート咳嗽(立て続けに出る咳);66.4%
咳による嘔吐;29.7%
呼吸苦(息苦しさ);17.5%
胸痛;12.5%

ただし、以下の症状もあります。
咽頭痛;46.6%
鼻汁;54.1%
鼻閉;8.9%
頭痛;28.8%
38度以上の発熱;23.0%
倦怠感;20.1%
悪心;5.7%
下痢;5.8%

「かぜ」と診断を受けてしまう理由が良く分かりますね。
咳を1週間以上放置しないこと、夜間に目が覚めるような咳が出たらすぐに医療機関受診をお勧めします。特に妊婦さんや0歳児のいらっしゃるお宅では、咳を放置しないでくださいね。リスクの高い新生児を百日咳から守りましょう。