百日咳の早期診断方法は、未だに確立はしていません。
確定診断としてはLAMP法が一番良いと仰る専門家の先生方も多いのですが、開業医として最前線で患者さんをたくさん拝見していると、LAMP法の欠点、或いは限界もあるように感じています。そのため当院では、血液検査による百日咳IgM抗体、百日咳IgA抗体を用いた早期診断方法を採用しています。
LAMP法は百日咳菌の遺伝子を直接検出する方法のため、陽性に出れば確定診断となり、培養検査に比べると有用性が高いのは確かです。ただし、欠点が幾つか挙げられます。
まずは、検体を採取するために、インフルエンザ検査に用いるような柔らかい綿棒を使用するのですが、インフルエンザの時よりもはるかに奥まで綿棒を入れて検体採取する必要があり、かなりの痛みを伴います。かと言って、中途半端な検体採取では陽性率が下がってしまい検査の意味が失われてしまうため、実施する以上は患者さんに痛みを我慢して頂く必要があります。当院では3歳未満の症例ではLAMP法を使用することがありますが、ご家族が血液検査で百日咳と診断されても、お子さんはLAMP法陰性と言うことが多々あり、感度が低い印象を持っています。勿論、私の手技が拙劣である可能性もありますが、私見では、ワクチン接種後の百日咳罹患の場合、ワクチンのブースター効果で菌の増殖が抑えられているためではないかと推量しています。加えて、パラ百日咳菌による百日咳の診断ができないことも大きな欠点だと感じています。
翻って、従来からある血液検査による抗体検査、通常の百日咳抗体(PT-IgGとFHA-IgG)は発症後1か月近く経過しないと上昇しないため、早期発見には全く役に立ちません。が、百日咳IgM抗体と百日咳IgA抗体は発症早期から上昇するため、有用性がとても高いと感じています。加えて、IgM抗体、IgA抗体、IgG抗体の組み合わせで百日咳菌、パラ百日咳菌の鑑別ができること、そして私が最も有用と感じているのが、発症時期の推定ができると言う点です。たとえば、1か月間咳が続いている患者さんでも、1か月前の咳は喘息による咳で、百日咳による咳の悪化は2週間前である、と言うことが採血結果で推量できます。そして、当院での百日咳確定385例のデータでは、マイコプラズマ肺炎合併を8.6%に認めますが、他疾患との合併の有無が確認できるのも大きなメリットと考えています。
IgM/IgAの比を用いて百日咳の早期診断ができる、と言うことを今年5月にテキサス州ダラスで開催された米国胸部疾患学会や今年4月の日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本小児科学会で発表しています。
百日咳IgM抗体、百日咳IgA抗体ともに保険適応にはなっているものの、PT-IgGやFHA-IgGとの同時保険請求ができないため、当院ではIgM抗体、IgA抗体は研究費で測定しています。そのため、まだ医療者にも認知度が低く活用されていないのが現状です。
この様な早期診断方法が普及することで百日咳の蔓延が抑制できればと念じています。