令和1年11月の1か月間で、百日咳抗体IgM(M抗体)、百日咳抗体IgA(A抗体)、百日咳抗体(G抗体)を120名以上で測定しました。ワクチン接種後の百日咳罹患者の最少年齢も2歳11か月に更新され、最近3-4か月間で3歳から5歳の百日咳症例が急増しています。近隣の東京都、千葉県、茨城県から咳が止まらないと来院される患者さんも多く、その殆どが百日咳の診断を得ています。既に国内の広範囲で百日咳が蔓延していることを確信しています。今、ネット上に多く見かける百日咳の記載は教科書丸写しが殆どで、本当の病状を映し出していないと私は感じています。以下、リアルワールドにおける百日咳に関するサマリーをお届けします。

①咳が1週間続いたら、「かぜ」ではありません。
咽頭痛、鼻汁、発熱から始まりその後咳が悪化するため、カゼ、急性気管支炎、肺炎、咳喘息と勘違いされることが多々あります。現代の百日咳は「カタル期」は殆どの症例で全く無いか、あっても2-3日程度であり、病初期から咳が出ることが特徴です(第6報を参照)。立て続けに出る咳、嘔吐を伴う咳、夜間に覚醒する咳は要注意です。

②抗生物質や西洋薬の「せき止め」では咳を止めることは出来ません。
抗生物質は他者への感染を防ぐことは出来ても咳を止める効果はありません。鎮咳薬(せき止め)、気管支拡張剤、去痰剤などの西洋薬を用いて百日咳の咳を止めることは全く出来ません。咳を止めるには漢方薬治療がとても有効で、3日以内に咳を三分の一以下にすることが可能です。ただし、有名な麦門冬湯は4年前までは効果がありましたが、3年前から10歳以上の症例には全く効果がなくなっていて、当院では別の漢方薬を用いて治療しています。治療方法も年々変化していて、百日咳菌の変異が関係しているのではないかと私は推量しています(第3報第5報参照)。

③早期診断には、百日咳抗体IgM、百日咳抗体IgAが有効です。
LAMP法や通常の百日咳抗体(G抗体)には限界があり、M抗体とA抗体の測定が早期診断にはとても重要だと考えています。LAMP法はとても有名ですが、陽性になる確率は決して高くなく感度が低いと私は考えています(第7報参照)。当院で実施しているM抗体、A抗体、G抗体の3抗体同時測定は早期診断に有効であり、かつ、発病時期が推定でき、起因菌の鑑別(百日咳菌かパラ百日咳菌)もできるためとても有用性が高いと考えています。

④咳がでる病気は一つとは限りません。
当院の約750症例(百日咳確定及び疑い症例も含む)の解析では、百日咳に罹患すると約30%の症例が気管支喘息を新規発症します。加えて喘息治療中の患者さんも20%程度、喘息治療歴のある患者さんも10%程度いるため、気管支喘息と百日咳の併発率は約60%となります。喘息治療で咳が改善しない場合、百日咳合併の可能性が高いと感じています。

⑤百日咳は何回も繰り返すことがあります。
2020年4月の日本感染症学会総会、日本呼吸器学会総会で発表しますが、百日咳を2回、3回と繰り返す症例が既に50例を超えています。百日咳に罹患しても免疫ができないケース、或いは免疫が出来ても1年以内に消失してしまうケースもあり、百日咳の免疫ができるメカニズムの解明、新しい百日咳ワクチンの必要性を痛感しています(第5報第8報参照)。