2019年12月5日付けで、日本呼吸器学会から「百日咳診断基準フローチャート」が発表されました。当院で3年前から実施している、百日咳抗体IgM(M抗体)と百日咳抗体IgA(A抗体)がやっと明確に記載されるようになり、M抗体、A抗体の有用性が認知されつつあること自体はとても喜ばしいことと思っています。
2018年、2019年に引き続き、今年(2020年)も日本呼吸器学会総会、日本感染症学会総会、日本小児科学会総会で、当院における百日咳早期診断方法について発表します。昨年も一昨年もM抗体、A抗体についての発表は私だけでしたし、昨年の某学会では私の発表に対して、「M抗体、A抗体ともに海外では余り使われていないし良く分からない検査」と著名な教授からコメントされる位でしたから、呼吸器学会のフローチャートに掲載されたのにはとても驚きました。
M抗体、A抗体共に3年前から保険収載されている以上、有用性も担保されている筈ですし「良く分からない」ことはないと思うのですが、一番の問題は、通常の百日咳抗体(G抗体;PT-IgG、FHA-IgG)との同時測定が保険適応上実施出来ないことです。このことがM抗体やA抗体検査の普及が進まない一番大きな要因だと思います。当院では、M抗体、A抗体のコストはクリニック持ちで実施しています。百日咳の抗体検査をする以上は、M抗体、A抗体、G抗体の3種類を同時測定するのが望ましいと考えるからです。なぜなら、早期診断に加え、組み合わせによって発症時期の推定や、起因菌が百日咳菌かパラ百日咳菌かの鑑別も出来るからです。

M抗体、A抗体の普及で百日咳の早期診断ができる様になった後、問題となるのが治療です。
当院に巡り巡っていらっしゃる患者さんの多くが、漢方薬治療で咳がすぐに止まることに驚かれます。漢方薬は長期間内服しないと効果が出ないと思っておられる方が多いのですが、当院では3日間内服しても咳が三分の一以下にならないのであれば再受診するように指示しています。
殆どの教科書では百日咳の治療の欄には、「抗生剤投与」とだけ書いてありますが、残念ながら肺炎とは異なり百日咳の場合、抗生剤に咳を止める効果はありません。咳を早く止めることが出来る漢方薬治療が根付くことが、無駄な医療費の削減や患者さんのQOLを上げるためにはとても重要な要素と考えています。

百日咳は決して珍しい疾患ではなく、皆さんの直ぐそばにある疾患であること、0歳児にとっては先進国であっても未だに致死的な疾患であることをご理解頂きたく思っています。当院では、「咽頭痛、鼻水は葛根湯で対処。2日間内服しても効果がない場合、或いは咳が出始めたら直ぐに受診を」とお話しています。どんなに怖い病気でも初期症状はカゼ症状から始まります。ただのカゼであれば葛根湯で十分対処できますが、咳がでたら放置は禁物です。
百日咳の早期診断、早期治療法が根付くことで、0歳児の感染リスクが減少するように、今後も、国内外の学会発表を続けてゆく所存です。