当院における百日咳に対する漢方薬治療と早期診断法への取り組みが論文化され、「漢方と最新治療」2020年8月25日号(第29巻第3号:通巻114号)に掲載されました。タイトルは、「竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)を用いた百日咳のせき治療、及び百日咳の早期診断法の実践」です。
竹筎温胆湯は地味な漢方薬で、一般的には高齢者に多用される緩徐に効く弱いイメージでした。4年前から当院では百日咳のせき治療に竹筎温胆湯の投薬を開始。投与後3日以内に咳を軽減させることが判明し、即効性があることを日米の呼吸器学会を始め各種学会で報告しています。
今回の論文は2017年から2018年の症例をまとめたものですが、この期間では竹筎温胆湯単独での治療が主でした。が、最近2年間では百日咳菌の変異が起きているためか、竹筎温胆湯を中心に他の漢方薬を併用することが増えています。当院では治療法を決めつけず、患者さんの状態を慎重に拝見しながら年々進化させています。漢方薬の効果によって、菌の変異を推量できるのも新しいアプローチ方法だと私は考えています。

百日咳は新しいワクチン(Tdap)を作っても3年目には効果がなくなることが報告されています。百日咳を繰り返す症例も100症例に迫る勢いで増えており、百日咳に罹患しても抗体が出来ない、或いは一度できた抗体が急速に消失しているケースも確認しています。変異が激しい百日咳菌に対するせき治療も、年々変化させてゆく必要性を強く感じます。

新型コロナ流行後の半年間で、溶連菌感染症、手足口病、ヘルパンギーナ、アデノウィルス感染症など、多くの感染症は昨年の100分の1にまで減少と報告があり、一開業医の私もそれを実感しています。が、百日咳だけは例年通り、コンスタントに患者さんが来院しています。これは、手洗いやマスク、ソーシャルディスタンス、外出抑制をもくぐり抜けてしまう、新型コロナよりもより強い感染力を示唆しており、今後の流行状況に注意が必要です。
ご参考までに、発熱トリアージ外来での新型コロナ感染症の陽性率はせいぜい数%ですが、当院において発熱や咳嗽でトリアージされた患者さんの30%から40%が血液検査の結果、百日咳と診断を受けています。新型コロナのPCR検査が陰性で咳嗽が残っている症例には数多くの百日咳が隠れているのではないかと推量しています。

つい先週も、遠く離れた関東圏外から遠路はるばる「咳が止まらない」と患者さんが来院し、やはり百日咳と診断されました。百日咳は決して珍しく特殊な疾患ではないこと、早期診断法を用いればかなり多くの患者さんがいること、効果のない無駄な咳止めを使用せず漢方薬でせき治療をすることが肝要であることが周知されることを願っています。
百日咳は身近にある疾患です。咳が3日以上続く場合には医療機関受診をお勧めします。