新型コロナウィルス感染症に隠れて百日咳が流行しています。
今年5月に開催される、第95回日本感染症学会学術講演会で、当院での発熱外来における実績を発表することになりました。
タイトルは、発熱トリアージ外来(発熱外来)における百日咳流行と「咳のない百日咳」に関する報告、です。
新型コロナウィルス感染症(以下、新型コロナ)の流行以降、多くの感染症は顕著に減少し、昨年夏には夏カゼの代表のヘルパンギーナ、プール熱、手足口病も数例のみで、例年の1/100以下の頻度になっていました。昨年11月から今日までもインフルエンザは0名、かつて冬に大流行していたRSウィルス感染症も0名であり、マスク、手指消毒、3密回避によって、多くの感染症が顕著に減少しています。が、唯一の例外が百日咳であること、更に咳の出ない百日咳(発熱、頭痛、全身倦怠感、関節痛、腹痛、悪心、嘔吐、下痢など)の存在が今回明らかになりました。過去の臨床研究で、無症候性(全く症状のない)百日咳が7-8%程度存在することは分かっていましたが、もしかするとそれは「咳のない百日咳」を見逃していたからかもしれません。
新型コロナのPCR陽性率は首都圏平均で5-6%程度(当院では8.5%)、今年1月の高い時でも20%程度(当院では35%)なので、PCR陰性の80-95%の症例は、「カゼ」として処理されていると思います。その中にかなりの数の百日咳が隠され見逃されている、と言うのが今回の報告です。以下、5月発表の内容を先駆けてお知らせしたいと思います。
2020年4月から12月中旬までに当院の発熱外来を受診した144名を調べてみました。対象は1歳から82歳、平均年齢は26.6歳。女性/男性=85/59。
新型コロナPCR検査は59例に実施し、陽性者は5名。
細菌性肺炎5名、急性副鼻腔炎4名、溶連菌感染症3名。
百日咳菌による百日咳が36名、パラ百日咳菌による百日咳が4名。咳のない百日咳が17名。検査で確定診断は得られなかったが臨床的に百日咳を強く疑う症例が24名。
その他には、無菌性髄膜炎、急性間質性肺炎、急性腎盂腎炎、伝染性単核球症、膠原病、熱中症などなど。
特筆すべきは、「カゼ」、正式名称では急性上気道炎と確定診断できたのは、わずか37名(25.7%)のみでした。残りの約75%は百日咳を筆頭に何らかの病気が隠れていたということになります。
当院ではカゼ症状を「カゼ」と決めつけずに、診察所見や症状を大切にしながら、必要な検査を追加し、漢方薬治療への反応を見ながら、正しい診断を得る努力をしています。
カゼであれば、漢方薬を用いれば2日以内に治せますし、以前からお話しているように、百日咳の咳は抗生物質だけでは止められず漢方薬を併用しないと止めることができません。
新型コロナPCR検査は症状発現後24時間以上経過しないと陽性率が下がるため、発症直後に来院された患者さんには漢方薬を投与し、翌日PCR検査に来てもらっています。その時には既に症状が緩和されていた症例も数例あります。新型コロナも元はカゼのウィルスであり、初期治療は漢方薬が功を奏するのだと実感しています。
新型コロナ後、カゼ症状を正しく見極められる診断能力が求められるようになったと強く感じています。発熱には解熱剤、嘔吐したら吐き気止め、下痢には下痢止め、咳には咳止め、と言うやり方はもはや通用しないと思います。カゼ症状のトリアージには、漢方薬がとても有効です。一方で、百日咳の治療は漢方薬だけではダメで、抗生物質の併用が必須です。やみくもに抗生物質を投与することは耐性菌を増やしてしまうため当然避けるべきですが、カゼ症状だから抗生剤を投与しないと決めつけるのはもっと危険です。
常に正しい診断を目指して、必要な時に必要な薬剤を躊躇なく(タイミングよく)使用するのが大切だと感じています。当院では、カゼであれば漢方薬、それ以外の疾患には漢方薬と西洋薬の併用治療を実施しています。
新型コロナはとても怖い病気ですが、生活様式の変化やカゼの診療・治療の進化に寄与している一面もあると思います。カゼ症状を放置する方は減りましたし、体調管理にも皆さん気を付ける様になりました。全てにおいて、早期診断・早期治療が大切なポイントになると思います。せっかく早めに医療機関を受診しても、何の根拠もなく「カゼです」と断定されては意味がなく、医療機関側も正しい診断に導ける能力を高めて行ければと念じています。