例年4月から6月は全国的に百日咳が多い時期と言われています。
最近は1年中流行している印象を持っていましたが、今年4月以降、百日咳患者さんが一段と増えていて、特に2、3歳のお子さんが増えているのがとても気になります。本来、2歳児は4種混合ワクチンの4回目の追加接種直後のため、免疫量が一番多いと言われているはずなのですが・・・。
小さなお子さんをきっかけにご家族全員が百日咳に罹患し、ご兄弟の0歳児が入院されたケースも数例あり、ワクチンによる予防の限界を感じている今日この頃です。当院の取り組んでいる「百日咳の早期発見と早期治療」が一番大切な対策になると思いはじめています。
百日咳の権威と称される先生方は、早期診断としてLAMP法と言う検査を推奨しています。が、当院での経験では、ワクチン接種を受けた後の患者さんでは菌量が少ないためか陽性率がとても低い印象を持っています。実際にご一家で百日咳に罹患された皆様を拝見していると、百日咳抗体IgM、IgA(M抗体、A抗体)を用いた血液検査の有効性が際立ち、LAMP法はほぼ全滅(感度が低い)です。ところが、通常の百日咳抗体とM抗体、A抗体は同時測定が保険診療上認められていないため、有効性は高いのに普及していないのが現状です。今春、日本呼吸器学会が当院からの要望を採用して下さり来年の保険診療改定に向けて動き始めたところです。百日咳早期診断法が前進することを切に願っています。
百日咳のせき治療に関しては、ブログで何度もお伝えしているように、早期の抗生剤投与に加え、漢方薬治療が必須です。最近2-3か月の間で、10歳未満の竹恕温胆湯(ちくじょうんたんとう)の使用頻度が増えていて、百日咳菌の変異を疑っています。今までであれば、10歳未満は比較的飲みやすい麦門冬湯(ばくもんどうとう)が効いていたのですが・・・。
漢方薬は決して美味しい薬ではないですし、苦いものもたくさんあります。ただ、3日間内服すれば嘔吐しそうな激しい咳も3分の1以下に顕著に減少します。お子さんが嫌がっても、愛情をもって頑張って内服させているお母さんはヒーロー(ヒロイン?)です。百日咳の治療は早ければ早いほど早く治ります。そして西洋薬の咳止めはいくら飲んでも効きません。なので、海外でも国内でも百日咳とせっかく診断されても、「そのうちに(2-3か月以内)止まるからそれまでは仕方ないね」、と言われるようです。
当院では疾患に応じて西洋薬と漢方薬を使い分け、時にその二つを併用しています。百日咳のせき治療は漢方薬がベストであると断言できます。ただ、薬は洋の東西を問わず、いやいや飲むとなぜか効きません。薬はあくまで治すお手伝いをするだけで、最後の切り札は患者さんや親御さんの「やる気」や「なおす気」なのです。「気」は目には見えませんが、とても重要な役割をもっていると日常診療で日々感じています。