2024年5月に米国のサンディエゴで開催される、ATS(全米胸部疾患学会;アメリカの呼吸器学会)において、当院の百日咳研究の2演題が採択されました。
1つ目の演題は、「百日咳はコロナ禍においても減少しなかった唯一の感染症であり、コモンディジーズ(普通に良くある疾患)である」と言う内容です。7年前(2017年)から当院では百日咳の早期診断法を確立していましたから、新型コロナ流行後もきちんと百日咳の診断を継続していました。百日咳と新型コロナは初期症状がとても似ているため、新型コロナPCR検査が陰性だと通常の医療機関では「カゼ」と診断されてしまうことが多かったと思います。新型コロナ流行直後の最初の2年間は、インフルエンザ、溶連菌感染症、手足口病などは全く見かけなくなりましたが、百日咳は全く減らないばかりか、却って増えている印象を持っていました。コロナ前後の5年間の集計をしたところ、その感覚が当たっていたと言うことになります。3密回避、手指消毒、マスク着用で多くの感染症が急激に減少したのに、百日咳だけが減らなかったのはとても不思議なことですが、それだけ感染力が強いと言う証左なのかもしれません。
もう1つの演題は、当院で7年前から実施している百日咳の早期診断法を2100症例でまとめた「百日咳の早期診断法」についての発表です。百日咳の早期診断は、新型コロナ診断で大活躍しているPCR検査をもってしても困難で、当院で実施している血液検査を用いた百日咳抗体IgMと百日咳抗体IgAの測定、そしてIgM/IgA比がとても有効であると言う内容です。この検査は保険収載されているものの、通常の百日咳抗体(IgG抗体)との同時測定が認められていないがために有効利用がされていません。2―3年前に日本呼吸器学会からの依頼で、当院のデータを基にした診療報酬改定要望書を提出しましたが未だに採用されず、百日咳の早期診断の足かせとなっています。今回、米国の呼吸器学会がその有用性を認めて下さったのはとても光栄に感じています。日本においても、百日咳の早期診断法が根付くことを切望しています。
百日咳のせき治療は、海外であれば、西洋薬に咳を止める治療法がないために、抗生剤を処方したあとは「2-3か月間、咳が続いたら自然に止まるから放置して構いません」と言われるようです。百日咳のせき治療は漢方薬治療が有用(治療開始1-2週間で治癒)であることも、既に当院から国内外の各種学会で報告しており、一般診療医が漢方薬治療に精通することも重要なポイントだと感じています。それが、2023年4月に「急性疾患にすぐ効く‘‘特選‘‘漢方薬」と言う書籍を上梓した理由でもあります。
まだまだ百日咳は特殊な疾患と言う認識が医師の間でも多いのですが、すぐ身近にいる「良くある疾患」であることが認知され、早期診断、早期治療が周知されることを願って今後も学会発表を継続してゆきます。