百日咳が増えています:第十報

(2020年1月10日掲載)

2019年12月5日付けで、日本呼吸器学会から「百日咳診断基準フローチャート」が発表されました。当院で3年前から実施している、百日咳抗体IgM(M抗体)と百日咳抗体IgA(A抗体)がやっと明確に記載されるようになり、M抗体、A抗体の有用性が認知されつつあること自体はとても喜ばしいことと思っています。
2018年、2019年に引き続き、今年(2020年)も日本呼吸器学会総会、日本感染症学会総会、日本小児科学会総会で、当院における百日咳早期診断方法について発表します。昨年も一昨年もM抗体、A抗体についての発表は私だけでしたし、昨年の某学会では私の発表に対して、「M抗体、A抗体ともに海外では余り使われていないし良く分からない検査」と著名な教授からコメントされる位でしたから、呼吸器学会のフローチャートに掲載されたのにはとても驚きました。
M抗体、A抗体共に3年前から保険収載されている以上、有用性も担保されている筈ですし「良く分からない」ことはないと思うのですが、一番の問題は、通常の百日咳抗体(G抗体;PT-IgG、FHA-IgG)との同時測定が保険適応上実施出来ないことです。このことがM抗体やA抗体検査の普及が進まない一番大きな要因だと思います。当院では、M抗体、A抗体のコストはクリニック持ちで実施しています。百日咳の抗体検査をする以上は、M抗体、A抗体、G抗体の3種類を同時測定するのが望ましいと考えるからです。なぜなら、早期診断に加え、組み合わせによって発症時期の推定や、起因菌が百日咳菌かパラ百日咳菌かの鑑別も出来るからです。

M抗体、A抗体の普及で百日咳の早期診断ができる様になった後、問題となるのが治療です。
当院に巡り巡っていらっしゃる患者さんの多くが、漢方薬治療で咳がすぐに止まることに驚かれます。漢方薬は長期間内服しないと効果が出ないと思っておられる方が多いのですが、当院では3日間内服しても咳が三分の一以下にならないのであれば再受診するように指示しています。
殆どの教科書では百日咳の治療の欄には、「抗生剤投与」とだけ書いてありますが、残念ながら肺炎とは異なり百日咳の場合、抗生剤に咳を止める効果はありません。咳を早く止めることが出来る漢方薬治療が根付くことが、無駄な医療費の削減や患者さんのQOLを上げるためにはとても重要な要素と考えています。

百日咳は決して珍しい疾患ではなく、皆さんの直ぐそばにある疾患であること、0歳児にとっては先進国であっても未だに致死的な疾患であることをご理解頂きたく思っています。当院では、「咽頭痛、鼻水は葛根湯で対処。2日間内服しても効果がない場合、或いは咳が出始めたら直ぐに受診を」とお話しています。どんなに怖い病気でも初期症状はカゼ症状から始まります。ただのカゼであれば葛根湯で十分対処できますが、咳がでたら放置は禁物です。
百日咳の早期診断、早期治療法が根付くことで、0歳児の感染リスクが減少するように、今後も、国内外の学会発表を続けてゆく所存です。


 

百日咳が増えています:第九報

(2020年1月10日掲載)

令和1年11月の1か月間で、百日咳抗体IgM(M抗体)、百日咳抗体IgA(A抗体)、百日咳抗体(G抗体)を120名以上で測定しました。ワクチン接種後の百日咳罹患者の最少年齢も2歳11か月に更新され、最近3-4か月間で3歳から5歳の百日咳症例が急増しています。近隣の東京都、千葉県、茨城県から咳が止まらないと来院される患者さんも多く、その殆どが百日咳の診断を得ています。既に国内の広範囲で百日咳が蔓延していることを確信しています。今、ネット上に多く見かける百日咳の記載は教科書丸写しが殆どで、本当の病状を映し出していないと私は感じています。以下、リアルワールドにおける百日咳に関するサマリーをお届けします。

①咳が1週間続いたら、「かぜ」ではありません。
咽頭痛、鼻汁、発熱から始まりその後咳が悪化するため、カゼ、急性気管支炎、肺炎、咳喘息と勘違いされることが多々あります。現代の百日咳は「カタル期」は殆どの症例で全く無いか、あっても2-3日程度であり、病初期から咳が出ることが特徴です(第6報を参照)。立て続けに出る咳、嘔吐を伴う咳、夜間に覚醒する咳は要注意です。

②抗生物質や西洋薬の「せき止め」では咳を止めることは出来ません。
抗生物質は他者への感染を防ぐことは出来ても咳を止める効果はありません。鎮咳薬(せき止め)、気管支拡張剤、去痰剤などの西洋薬を用いて百日咳の咳を止めることは全く出来ません。咳を止めるには漢方薬治療がとても有効で、3日以内に咳を三分の一以下にすることが可能です。ただし、有名な麦門冬湯は4年前までは効果がありましたが、3年前から10歳以上の症例には全く効果がなくなっていて、当院では別の漢方薬を用いて治療しています。治療方法も年々変化していて、百日咳菌の変異が関係しているのではないかと私は推量しています(第3報第5報参照)。

③早期診断には、百日咳抗体IgM、百日咳抗体IgAが有効です。
LAMP法や通常の百日咳抗体(G抗体)には限界があり、M抗体とA抗体の測定が早期診断にはとても重要だと考えています。LAMP法はとても有名ですが、陽性になる確率は決して高くなく感度が低いと私は考えています(第7報参照)。当院で実施しているM抗体、A抗体、G抗体の3抗体同時測定は早期診断に有効であり、かつ、発病時期が推定でき、起因菌の鑑別(百日咳菌かパラ百日咳菌)もできるためとても有用性が高いと考えています。

④咳がでる病気は一つとは限りません。
当院の約750症例(百日咳確定及び疑い症例も含む)の解析では、百日咳に罹患すると約30%の症例が気管支喘息を新規発症します。加えて喘息治療中の患者さんも20%程度、喘息治療歴のある患者さんも10%程度いるため、気管支喘息と百日咳の併発率は約60%となります。喘息治療で咳が改善しない場合、百日咳合併の可能性が高いと感じています。

⑤百日咳は何回も繰り返すことがあります。
2020年4月の日本感染症学会総会、日本呼吸器学会総会で発表しますが、百日咳を2回、3回と繰り返す症例が既に50例を超えています。百日咳に罹患しても免疫ができないケース、或いは免疫が出来ても1年以内に消失してしまうケースもあり、百日咳の免疫ができるメカニズムの解明、新しい百日咳ワクチンの必要性を痛感しています(第5報第8報参照)。


 

百日咳が増えています:第八報

(2019年11月11日掲載)

成人の百日咳が益々増えているのは昨年と同様で、季節変動がなくなり通年性に移行していると感じています。他院で「かぜ」と診断されて抗生剤や咳止めを1か月以上内服しているのに咳が続くと困り果てて当院を受診される方も増え続けています。当院の漢方薬治療で3日以内に咳嗽が1/3程度に改善し、その薬効に驚かれることも珍しくなくなりました。

以前もお話したように、先進国(米国、カナダ、イギリス、オーストラリアなど)ですら成人の百日咳罹患者の集団発生は毎年のように報告されており、日本も決して例外ではありません。百日咳の全例報告が義務付けられて以降、成人の罹患者が増えているとの報道がありますが、これは海外と同様の現象で特に珍しいことではありません。と言うより、成人の百日咳はかなり蔓延しcommon diseaseに近い発病率で、確定診断を得た症例は氷山の一角ではないかと私は考えています。

私が危機感を抱いている日本の最大の問題点は、百日咳の低年齢化が進んでいることです。数か月前までは7-8歳の罹患者が多かったのですが、最近1か月間で4歳代の罹患者が急増しています。ワクチン接種後の百日咳罹患者の最低年齢も3歳1か月に更新されました。5歳まですらワクチンの効果が持続しないケースがかなり増えているようです。
現在日本では4種混合ワクチンを4回しか接種していませんが、海外同様に5-6歳で5回目、11-12歳で6回目の追加接種を早期に導入しないと、百日咳の低年齢化は益々進んでゆくことが示唆され、0歳児の百日咳罹患リスクは更に高まることが予想できます。なぜなら、両親よりも同胞から移る可能性が高いからです。

現在の百日咳ワクチンは、PT(百日咳毒素)とFHA(繊維状赤血球凝集素)と言う抗原を利用して作られていますが、当院での複数回罹患者(2回以上百日咳を繰り返した症例)の検討から、百日咳に罹患してもPTやFHAが上昇しない症例や、一度百日咳に罹患してPT-IgG抗体が400EU/ml以上であったのにも関わらず、10か月後には10未満となり2度目の罹患者となった症例もありました。果たして今の百日咳ワクチンの接種回数を増やすことだけで今後の流行が抑制できるのか甚だ疑問を感じている今日この頃です。
小児への接種回数を増やすことは一刻も早く着手すべきですが、それだけでは足りないのではないか、と言うのが現在の一開業医からの提言です。

咳が1週間以上続く場合、それは「かぜ」ではありません。夜中に咳で起きてしまう場合、咳き込んで嘔吐してしまう場合、一度出始めるとしばらく続く咳などは、百日咳を強く疑います。早期に医療機関への受診をお勧めします。その際、「かぜ」と言われても食い下がって辛い症状をきちんと伝えましょう。それが自分やお子さんを守ることにつながります。
本来であれば医療者がもっと百日咳を強く疑うべきなのですが、大きな病院の呼吸器専門医や小児科専門医ですら、まずは死に至る病気(肺がん、結核、肺炎など)の診断を優先しがちです。それが問題ないとなると、「かぜ」とか「気管支炎」とか「咳喘息」と言う診断で、漫然と咳止めが処方されるケースが多いと感じます。
百日咳は特殊な病気ではなく、比較的頻度が高いcommon diseaseであることが医療者に周知されるように、今後も国内外で学会発表を続けてゆきたいと思っています。


 

百日咳が増えています:第七報

(2019年10月15日掲載)

百日咳の早期診断方法は、未だに確立はしていません。
確定診断としてはLAMP法が一番良いと仰る専門家の先生方も多いのですが、開業医として最前線で患者さんをたくさん拝見していると、LAMP法の欠点、或いは限界もあるように感じています。そのため当院では、血液検査による百日咳IgM抗体、百日咳IgA抗体を用いた早期診断方法を採用しています。
LAMP法は百日咳菌の遺伝子を直接検出する方法のため、陽性に出れば確定診断となり、培養検査に比べると有用性が高いのは確かです。ただし、欠点が幾つか挙げられます。
まずは、検体を採取するために、インフルエンザ検査に用いるような柔らかい綿棒を使用するのですが、インフルエンザの時よりもはるかに奥まで綿棒を入れて検体採取する必要があり、かなりの痛みを伴います。かと言って、中途半端な検体採取では陽性率が下がってしまい検査の意味が失われてしまうため、実施する以上は患者さんに痛みを我慢して頂く必要があります。当院では3歳未満の症例ではLAMP法を使用することがありますが、ご家族が血液検査で百日咳と診断されても、お子さんはLAMP法陰性と言うことが多々あり、感度が低い印象を持っています。勿論、私の手技が拙劣である可能性もありますが、私見では、ワクチン接種後の百日咳罹患の場合、ワクチンのブースター効果で菌の増殖が抑えられているためではないかと推量しています。加えて、パラ百日咳菌による百日咳の診断ができないことも大きな欠点だと感じています。
翻って、従来からある血液検査による抗体検査、通常の百日咳抗体(PT-IgGとFHA-IgG)は発症後1か月近く経過しないと上昇しないため、早期発見には全く役に立ちません。が、百日咳IgM抗体と百日咳IgA抗体は発症早期から上昇するため、有用性がとても高いと感じています。加えて、IgM抗体、IgA抗体、IgG抗体の組み合わせで百日咳菌、パラ百日咳菌の鑑別ができること、そして私が最も有用と感じているのが、発症時期の推定ができると言う点です。たとえば、1か月間咳が続いている患者さんでも、1か月前の咳は喘息による咳で、百日咳による咳の悪化は2週間前である、と言うことが採血結果で推量できます。そして、当院での百日咳確定385例のデータでは、マイコプラズマ肺炎合併を8.6%に認めますが、他疾患との合併の有無が確認できるのも大きなメリットと考えています。
IgM/IgAの比を用いて百日咳の早期診断ができる、と言うことを今年5月にテキサス州ダラスで開催された米国胸部疾患学会や今年4月の日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本小児科学会で発表しています。
百日咳IgM抗体、百日咳IgA抗体ともに保険適応にはなっているものの、PT-IgGやFHA-IgGとの同時保険請求ができないため、当院ではIgM抗体、IgA抗体は研究費で測定しています。そのため、まだ医療者にも認知度が低く活用されていないのが現状です。
この様な早期診断方法が普及することで百日咳の蔓延が抑制できればと念じています。


 

百日咳が増えています:第六報

(2019年10月7日掲載)

百日咳の急増で、院長の危機感から最近ブログ更新が増えています。百日咳の常識と言われていることが、かなり現実と異なる、と言うことが判明しつつあるので、今回は、以下に「リアル百日咳」をご披露したいと思います。

① 百日咳は「カタル期」から始まる、はウソ。
どんな教科書を読んでも必ず、百日咳は「カタル期」から始まると書いてあります。カタル期とは、咳が出る前に咽頭痛、鼻水や鼻づまりなど感冒症状を呈する1週間程度の期間を指します。しかしながら、これは百日咳の免疫が全くない新生児が罹患した場合のみで、現在の百日咳でカタル期を見掛けることはまずありません。
その理由は、学童期以降成人まで、ほぼ全員が百日咳ワクチン接種を受けているからです。ワクチン接種を受けた方が百日咳に罹患すると症状が修飾され、カタル期を経ずに最初から咳が出るケースがほとんどだと感じています。咽頭痛や鼻汁が1、2日出て、その後一気に咳が悪化するケースも多く、このパターンの際には「かぜ」と診断されるケースがとても多い印象です。
今年の日本呼吸器学会総会で、百日咳に関する発表が私の他に2名の先生(静岡県と沖縄県)がされておられましたが、お二人の先生方も、「成人の百日咳はカタル期がないよね」と私と同意見でした。これは、幼児、学童期の百日咳も同じです。
ワクチン接種後の百日咳は、カタル期を経ないで発症する、が新常識です。

② 百日咳は夜に咳が悪化する、とは限らない。
夜に咳が悪化する疾患は百日咳だけではありません。数的には圧倒的に気管支喘息が多いと思います。当院では、喘息の咳か、百日咳の咳かを切り分ける方法があるので、比較的簡単に診断を付けることができます。
当院のデータでは、百日咳(百日咳の疑いを含めた)753名の内、夜間の咳嗽は62%に認めたのみで、逆に言うと、38%の症例は夜ぐっすり眠れていると言うことになります。実際に昼間に咳がひどくて夜は大丈夫と言う症例も多く認めます。
百日咳は夜間の顕著な咳嗽が有名ですが、夜眠れる患者さんもいる、が新常識です。

③ 百日咳は咳だけが症状とは限らない。
咳が最多の症状であることは間違いありません。教科書によっては痰の絡まない乾いた咳との記載がありますが・・・、先ほどの753名のデータでは以下の通りです。
痰がらみの咳;79.5%
スタッカート咳嗽(立て続けに出る咳);66.4%
咳による嘔吐;29.7%
呼吸苦(息苦しさ);17.5%
胸痛;12.5%

ただし、以下の症状もあります。
咽頭痛;46.6%
鼻汁;54.1%
鼻閉;8.9%
頭痛;28.8%
38度以上の発熱;23.0%
倦怠感;20.1%
悪心;5.7%
下痢;5.8%

「かぜ」と診断を受けてしまう理由が良く分かりますね。
咳を1週間以上放置しないこと、夜間に目が覚めるような咳が出たらすぐに医療機関受診をお勧めします。特に妊婦さんや0歳児のいらっしゃるお宅では、咳を放置しないでくださいね。リスクの高い新生児を百日咳から守りましょう。


 

百日咳が増えています:第五報

(2019年9月24日掲載)

この一年間で当院の臨床経験で判明したことは、以下の4点です。
(詳細は2020年4月の日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本小児科学会で発表予定ですが、百日咳急増ゆえに、早期に情報提供することを決断しました。)

まず一つ目は、百日咳を複数回罹患する症例が存在すると言うことです。百日咳は一度罹患すると二度と罹患しないと思っている方が多いと思います。百日咳は百日咳菌とパラ百日咳菌の2種類が起因菌となるため、2回罹患する可能性は誰にでもあり得ます。しかしながら、当院での早期診断方法によって、3回罹患した症例が5例以上、2回罹患した症例も25例以上あることが証明されました。他の疾患でも二度掛かりはあるので決して不思議なことではありませんが、ワクチン接種の限界、免疫反応のバリエーションなどが示唆されます。

2点目は、罹患者の男女比です。百日咳罹患者は圧倒的に女性が多い(男性3:女性7)ことが判明しました。が、不思議なことに15歳以下では性差を認めませんでした。この男女差は16歳以上で顕著と言うことになります。パラ百日咳菌による百日咳は男女比に有意差を認めませんでした。

3点目は、2年前と昨年1年間の治療法の比較(発症から当院初診までの期間は平均約10日で有意差なし)で、初診から治療開始までの期間は平均3.5日短縮、確定診断までの期間は平均4.1日短縮、治療終了までの期間は5.3日それぞれ短縮することが出来て、当院初診日から平均12.3日で治療を終了することが可能となり、治療期間が2週間を切ることが出来ました。当院における早期診断・早期治療が進化している証左と思われます。

最後に4点目は、せき治療の変化です。以前のコラムでご説明した様に、百日咳のせき治療は漢方薬治療が有効で、抗生物質は他者への感染を予防しても咳を止めることはできません。2年前と昨年1年間で治療に用いられた漢方薬を解析したところ、使用する漢方薬が少しずつ変化していることが判明しました。年齢によって使用する漢方薬も変化しており、治療法の工夫も挙げられますが、百日咳菌の変異の可能性もあると感じています。治療法は一つに決めつけずに、患者さんの咳の状態を見ながら調整することが必要になっていると感じています。

百日咳の症状はかなりバリエーションがありますが、咳の仕方を聴くことである程度予想ができる様になってきています。1週間以上続く咳は放置しないこと、0歳児や妊娠されている方がいらっしゃるご家庭では是非お気を付け頂きたいと思っています。

 

百日咳が増えています:第四報

(2019年9月24日掲載)

百日咳が最近1年間で急増しています

当院での百日咳早期診断・早期治療の取り組みによって、この一年間で400名を超える患者さんを早期診断し早期治療に導いています。年々百日咳は増加していますが、この一年間で急増しており、急性気管支炎やマイコプラズマ肺炎のようなcommon disease(一般的に良く見掛ける疾患)に近い印象を私は持っています。
その一方で、まだまだこの流行に危機感を抱く医療従事者は呼吸器内科や小児科医ですら数少なく、「かぜ」と言われ続けて漫然と治療を受けている症例が後を絶ちません。
この一年間で、生後1か月、生後4か月の2名の新生児が百日咳に罹患し重症化し入院しました。一例はご両親から、もう一例はご兄弟からの罹患であり、明らかに0歳児の百日咳罹患リスクは大きくなっていると危機感を強く感じます。
加えて、4種混合ワクチンを4回接種しているにもかかわらず、3歳6か月で百日咳に罹患した症例もあり、この2年間で15歳以下の150名(10歳未満が75名、10歳~15歳が75名)が百日咳と確定診断を得ています。成人の百日咳が多いのは先進国でも似た状況ですが、幼児期・学童期に百日咳が多発しているのは、予防接種回数の不備が関係していることが示唆され、海外同様に幼稚園年長時に5回目の追加接種、11歳から12歳の二種混合から百日咳を含む三種混合ワクチンへの変更が急務と考えています。
来年4月に開催される日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本小児科学会への抄録をまとめたばかりですが、上記の危機感から、速報で当院における百日咳の現況を第5報でご報告したいと思います。

 

百日咳が増えています:第三報

(2019年5月7日掲載)
百日咳の早期診断・早期治療についての当院の取り組み

当院では5年ほど前から百日咳の早期診断・早期治療の取り組みをしており、今年はATS・2019(アメリカ胸部疾患学会;米国の呼吸器学会)を始め、日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本小児科学会において、当院独自の早期診断法や漢方薬を用いた当院オリジナルの治療法を発表する機会を得られました。
4-5年前には、2年間で63例の百日咳と確定診断(百日咳61例、パラ百日咳2例)を得るのがやっとでしたが、昨年度には半年間で112名が百日咳と確定(百日咳98例、パラ百日咳14例)され、83名が百日咳の疑いと診断されています。早期診断・早期治療により、早ければ1週間以内(最短では2日)、平均でも2週間足らずで咳を止めることが出来るようになり、患者さんからもお褒めの言葉を頂戴することが増えました。

百日咳は保健所への届け出が義務付けられている特殊な疾患と思われているのが現状ですが、当院での認識では、かなり広く蔓延している印象があり、急性気管支炎やマイコプラズマ肺炎のようなcommon disease(良く見かける一般的な疾患)に近い印象を持っています。

症状も肋骨骨折を伴うような激しい咳嗽の患者さんもいれば、殆ど咳嗽がない患者さんもいて個体差がとても大きく、このことが百日咳蔓延の一因になっていると推量しています。加えて、喘息発作の形をとる百日咳もかなりの数に上り、3人に一人は百日咳を契機に初発喘息を発症しているケースがあることも当院の研究で分かってきました。喘息治療は近年かなり進歩しているため、喘息治療で改善を認めない場合には、百日咳の重感染のある可能性も示唆されます。大学病院や地域基幹病院でCT検査、喀痰検査などをしても異常がなく、困り果てて当院に来院され百日咳と診断されるケースも多くなっており、呼吸器内科専門医ですら百日咳を疑うことがまだ少ないのかもしれません。このようなことも、百日咳蔓延の一因と私は考えています。

「百日咳は致死的疾患ではないから重要視しない」と明言される小児科医や呼吸器内科医も多いのですが、0歳児に限っては先進国ですら致死的疾患として恐れられており、イギリスでは妊婦さんに接する全員に百日咳ワクチンが義務付けられているほどです。両親に加え、同胞(兄弟姉妹)から0歳児に移るリスクが大きいことも判明しています。多くの先進国では百日咳ワクチンを6回接種が通常ですが、日本では長期間4回接種のままで、一向に改善する気配がありません。2年前の日本感染症学会のシンポジウムでも提言したのですが、MR2期に併せて5回目の接種を、11歳から12歳のDT(二種混合)を6回目の接種に変更すべきと考えています。

百日咳のせき治療は抗生物質と思っている医療者が未だに多いようですが、実は抗生物質は他者への罹患を防ぐことは出来ますが咳を止めることは出来ません。なぜなら、毒素によって咳が出ているからです。西洋薬の鎮咳剤(せき止め)は眠気、めまい、便秘などの副作用があることから20歳未満の使用は控えるべきと言われており、喘息の治療に用いられる気管支拡張薬や去痰剤も効果がないため、漢方薬が第一選択薬となります。

百日咳は変異の多い細菌であることが知られていて、ワクチン接種をしても最初の2年間は効果を得られても、3年目に効果が減弱してしまうことが海外のデータで判明しています。4年前まで百日咳のせき治療に効果があった漢方薬、現在は殆ど効果がなくなっていて、そのために、3年前から当院では新しい漢方薬を用いて治療をしています。この様なことからも、百日咳が変異を起こしていることが推量され、百日咳のせき治療も決めつけずに年々変化させてゆくべきと私は考えています。

百日咳、なかなか手ごわい相手ですが、ワクチンで予防できるものは予防し、発症してしまった場合には、早期診断・早期治療の二本立てで対処すべきと考えます。早期診断で一番大切なことは、「咳が出たら早めに受診する」、「咳を1週間以上放置しない」ことが肝要です。特に、0歳児がいらっしゃるご家庭では気を付けて頂きたいと思っています。

 

百日咳が増えています:第二報

(2018年3月12日掲載)
2017年11月から百日咳と診断される患者さんが再度急増しています。月に10名から20名程度の頻度で、例年になく多い印象です。
最近3年間では12月から1月、4月から6月に多い印象でしたが、季節性の変動が無くなって通年性に移行している様に感じます。最小年齢は4歳6か月、小学生も多く、患者さんの居住地も三郷市南部から北部まで、都内の方もいらして、個別の発症のようです。
昨年の日本感染症学会のシンポジウムでも提言しましたが、4種混合ワクチンの効果は5歳まで持たないケースが確かにあるようで、追加接種の早期開始が望まれます。特に今年は小学校3.4年生の百日咳患者さんが多く、海外の様にMR2期(5歳から6歳)に合わせた追加接種が効果的だと考えています。
百日咳は、百日咳菌とパラ百日咳菌によって引き起こされる病気ですが、日本では2%程度とされているパラ百日咳菌による百日咳も、一昨年の当院でのデータでは5%、最近の早期診断方法では10%程度認めており、かなり見過ごされている実態が分かってきました。百日咳菌による百日咳はワクチンで予防することが可能ですが、パラ百日咳菌による百日咳は予防方法がなく、今後の流行動向に注意が必要と感じています。
当院では早期診断への取り組みによって、発症1週間程度で診断できる百日咳が増えています。これらの取り組みを、2018年5月31日から6月2日に岡山で開催される予定の第92回日本感染症学会で口演発表することが採択され、「当院における百日咳の早期確定診断への取り組み」を発表します。
余談ですが、今年のインフルエンザは喘息患者さんですら感染後咳嗽が殆どない特徴があったため、インフルエンザ後の咳嗽では溶連菌感染症合併例が多く、なかに数名、百日咳合併の患者さんも見つかっています。
漫然と咳止めだけ内服することは避けたいものです。1週間以上長引く咳、嘔吐を伴うような咳があった場合には、早めの受診をお勧めします。

 

百日咳が増えています

はじめに

小児の百日咳はワクチンによってほぼ沈静化していると考えられていました。一方、ワクチンの効果が減弱した15歳以降の百日咳の増加は以前から指摘されています。
当院は咳が止まらずに遠方からいらっしゃる患者さんも多いのですが、今年も既に15名以上の患者さんが百日咳と診断されています。
ワクチン(4種混合・3種混合)の効果は15歳までは持続すると言われていますが、日本で使用されているワクチンは腫れなどの副作用が少ない分、5年程度で効果が消失する例もあるようで、実際当院でも、最年少の罹患者は5歳のお子様でした。
2016年の第56回日本呼吸器学会総会で発表した百日咳に関する報告内容を以下にお示しします。

対象・方法

対象は平成26年4月から平成27年8月までの期間で当院においてEIA法によりPT-IgG≧100EU/ml、又はペア血清で2倍以上の上昇を認めた28名。

結果

女性/男性=17/11、
年齢別では8歳以上10歳未満;5名、
10歳以上15歳未満;5名、
15歳以上20歳未満;2名、
20歳以上;16名(36歳~71歳)。

おわりに

咳が1週間以上続く場合には早期に医療機関の受診をお勧めします。が、残念なことに施設によっては「カゼ」と判断して漫然と鎮咳剤を出すところも多いので、薬効を認めないときには他院を訪ねてみるのも良いかもしれません。家族内、職場内に咳をしている方が他にもいらっしゃる場合には早期の受診をお勧めします。百日咳は1歳未満のお子様にはいまだに命の脅威となる疾患であり、特に小さなお子様がいらっしゃるご家庭ではご注意頂きたく思っています。