溶連菌感染症の臨床症状と診察所見の詳細;第二報

(2018年3月3日掲載)
溶血性連鎖球菌感染症(以下、溶連菌と略します)が小児だけではなく大人にも数多く流行していることは、少しずつ認知されるようになってきました。が、一般的に考えられているよりもずっと多くの溶連菌が見逃されていることを、日本内科学会、日本感染症学会などで報告し警鐘を鳴らしてきました。

溶連菌は扁桃腺が腫れて高熱があり、激しい咽頭痛がある、と教科書にも書いてありますし、医者も患者さんもそう思っている方が多いのが現状です。今回、当院で溶連菌と診断を受けた637名、対象年齢0歳から80歳(中央値9歳)の症状と診察所見をまとめ、2018年5月31日から6月2日まで岡山で開催される、第92回日本感染症学会で口演発表する内容をお知らせします。

38.0℃以上の発熱 29.8%
咽頭痛 41.0%
頭痛 34.4%
全身倦怠感 24.2%
悪寒 6.0%
関節痛 4.4%
腹痛 20.9%
はきけ・嘔吐 15.7%
下痢 17.0%

 

咽頭所見では、著明な発赤・扁桃腫大は7.7%、咽頭発赤は20.2%で、残る72.1%は全く正常範囲内でした。

上記を見ると、「インフルエンザ」や「急性胃腸炎」と間違えられてしまう理由が良く分かると思います。のどが痛くない、のどが赤くない溶連菌感染症はたくさん存在します。吐いて下痢をする溶連菌もあり、溶連菌による集団食中毒の報告もあります。

ここで私が注目しているのは、咽頭痛に次いで頭痛が多いと言うことで、大人に限ると45%の症例で強い頭痛を感染初期に訴えます。この頭痛は片頭痛と同じ頭痛であることを漢方薬治療を用いて証明し、2017年の国際頭痛学会と日本頭痛学会で発表しました。咽頭痛に加え激しい頭痛を伴うときには、大人の溶連菌の可能性が高いと感じています。インフルエンザ検査が陰性、のどが赤くないから「カゼ」、と決めつけるのは避けたいものです。

溶連菌は「人喰いバクテリア」としても有名です。重症化するのはごく一部の患者さんですが、致死率が非常に高いことが知られています。当院でも昨年2名の患者さんを早期発見して病院紹介し、一例は筋膜切除術で、もう一例は入院での抗生剤点滴でお元気になられ、ご本人、ご家族にも喜んでいただけました。

大人の溶連菌は放置しても治る、抗生物質をむやみに使用するのは良くないと言う考え方もあるようですが、重症化した症例を見ると、決して侮れない感染症だと思います。

カゼ症状は放置で治るとは限らない。カゼは万病のもと。いつものカゼとは違うと思った時には、病院受診をお勧めします。感冒症状の初期には漢方薬治療が良く効くのですが、その話はまたの機会に。

溶血性連鎖球菌感染症は気管支喘息を誘発する

(2016年3月25日掲載)

はじめに

成人(大人)における溶血性連鎖球菌感染症(以下、溶連菌と略します)の増加と診断率の低さを各種学会で報告しています。症状が多彩でインフルエンザ或いは急性胃腸炎に酷似することに加え、咽頭発赤や発熱を伴わないケースが多いことがその原因と考えています。
溶連菌は急性上気道炎(かぜ)であり通常咳は出ないと考えられています。しかしながら、3人に一人は溶連菌感染前後に顕著な咳嗽(せき)を訴え、そのまま気管支喘息(以下、喘息と略します)に移行する例を目にすることが多くなり、それらの症例をまとめて、今年の日米の呼吸器学会で発表しました。
2016年に開催された米国の呼吸器学会(ATS;米国胸部疾患学会)と日本呼吸器学会総会で発表した内容を以下にまとめてみました。

対象・方法

対象は平成26年9月から平成27年6月までに当院を受診し、溶連菌迅速検査陽性で喘息の既往がなく溶連菌感染後に咳嗽が残存した238例。平均年齢は40.3±17.2歳(15歳から80歳)、男/女=69/169、発症平均7.7±5.2日(1日から30日)後に、喘息の状態を確認できるモストグラフによる呼吸抵抗値(Rrs)と呼気一酸化窒素濃度(FeNO)を同時測定し、病態を確認しました。

結果

モストグラフでRrsが高い症例は216例(90.8%)にも達し、FeNOが高い症例も108例(45.4%)と、溶連菌後に咳嗽が残っている症例の多くは喘息に似た病態であることが確認できました。さらに驚くことに、238例中65例(27.3%)が喘息の治療を現在も継続しており、溶連菌によって喘息が発症することが証明されました。

さいごに

上気道炎後の喘息発症の多くはウィルスによるものと言われていますが、溶連菌感染後の喘息発症リスクは予想以上に高いことが判明しました。今後も、一家庭医としてそのメカニズムを追究し、喘息発症リスクの低減を目指してゆきたいと思っています。

成人(大人)及び小児の溶血性連鎖球菌感染症(溶連菌)多発について

(2015年7月21日掲載)

 

はじめに

平成25年7月から溶連菌感染症が多発しており、保育園、幼稚園、小・中学校内だけではなく家族・地域に拡散している。成人(大人)も数多く罹患しており、最高齢は91歳。この状況を平成27年4月の第112回日本内科学会総会で報告している(成人における溶血性連鎖球菌感染症のunderdiagnosisについて;p280, vol.104, 日本内科学会雑誌, 2015)。

溶連菌を疑わせる症状

成人(大人)の溶連菌感染症が増えています

成人(大人)の溶連菌感染症が増えています

  • 発熱、咽頭痛、咽頭発赤(のどの赤味)と、医師ですら考えている。
  • しかし実際には・・・
  1. 38度以上の発熱を呈する者は30%程度、それも持続するのではなく一過性(一晩だけなど)のことも多い。
  2. 咽頭発赤を認めるのは、小児では30-40%程度、成人(大人)では10%未満
  3. 成人(大人)の場合、咽頭痛に加え激しい頭痛関節痛倦怠感などインフルエンザに似た症状が主体のことが多く、インフルエンザ検査陰性ゆえに「カゼ」と診断されるケースが多い
  4. 現状多い症状は、吐き気嘔吐腹痛下痢などの胃腸炎症状。他院で胃腸炎と診断され病状悪化し受診するケースが後を絶たない。
  5. 一見おたふくかぜの様に、頬や首のリンパ腺が腫れることもある
  6. 気管支喘息の患者さんは咳の悪化を認める。成人(大人)では溶連菌がきっかけでそのまま喘息に移行する例もある(いずれもマイコプラズマ肺炎との鑑別が重要)
  7. 溶連菌感染症の発症前に急激に多量の鼻水が出て、一見花粉症の様な初発症状もある
  8. じんましんが初発症状のこともある(しょう紅熱の発疹とは異なる)

溶連菌の拡散を防ぐために

  • 周囲に溶連菌罹患者がいて、潜伏期(1-5日間、平均3日間)内に何らかの症状が出たらその旨を医師に伝え、咽頭発赤がなくても溶連菌迅速検査を実施してもらうこと
  • 家族内に溶連菌感染症の症状がある場合には、家族全員が受診をすること(ピンポン現象を防ぐため)
  • 最も重要なことは溶連菌感染症で処方された抗生剤は7-10日間最後まできちんと内服すること(5日間では足りません)