「首がこる」「肩がこる」は片頭痛の症状です(片頭痛の症状は多彩です)。

(2021年2月16日掲載)

昨年11月半ば以降、時季外れに片頭痛の患者さんが急増しています。本来であれば寒い時期に片頭痛発作は減り、2月半ばの春一番以降、暖かくなるにつれて発作が増えるものですが、最近は1年中、片頭痛の患者さんが遠くから来院されます。近年の気圧変動が大きいことがその原因ではないかと推量しています。

片頭痛の特徴は、拍動性(ズキンズキン)と体動時の悪化(身体を動かすと頭痛が悪化する)です。が、片頭痛の症状は頭痛だけとは限りません。
片頭痛で一番多い症状、実は「肩こり」「首凝り」だと言うことをご存知でしょうか。一般的に肩こりから来る頭痛は「筋緊張性頭痛」と呼ばれていますが、普通の肩こりは痛み止めや湿布で治ってしまうので、医療機関を訪れることは殆どありません。

当院では漢方薬治療(五苓散と呉茱萸湯の同時投与)で5分から10分で片頭痛の痛みを取り除くことが可能なので、漢方で「肩こり」「首凝り」が消失すれば、簡単に片頭痛と診断できます。片頭痛の「肩こり」は首も同時に凝っていることが多く、全身倦怠感(だるさ)やあくび、ひどくなると吐き気を伴うことも特徴です。このタイプの患者さんは、冷え性で胃が弱い方が多いので、消炎鎮痛剤は効果がないばかりか、かえって胃の調子を崩してしまうので、痛み止めの使用は控えるべきです。

米国の片頭痛治療ガイドラインでは、小児や妊婦さんの片頭痛治療薬として、アセトアミノフェンやイブプロフェンを勧めています。が、アセトアミノフェンはせいぜい10歳前後で、イブプロフェンも15歳を超えると殆ど効果がなくなります。西洋薬の急性期治療薬としてトリプタンが有名ですが、使い過ぎによる薬物乱用リスクや、妊婦さん或いは12歳未満には使用できないなどの制約があります。

漢方薬は、小児・青年期、妊婦さん、授乳中の女性に対しても投与が可能です。そして一番の強みは、体質改善効果によって片頭痛発作が徐々に減少してゆく現象が認められることです。初診時は頻回な片頭痛発作を起こしていた患者さんが漢方治療が奏功すると発作の頻度が減少し、頭痛時屯用のみ使用することで、2週間処方して2年間来院せずに済むようになるケースもあります。漢方薬を使用すればするほど発作が減り、薬を必要とする回数も減ってゆくと言う経過は、患者さんにとっては勿論、医療経済学的にもとても魅力的だと考えています。

肩こり、首凝りの次に多い症状は、倦怠感、脱力感、あくびです。知覚過敏で光や音に敏感になる(光を眩しく感じる、テレビの音がうるさい、など)症状を併発することも多いです。これらの症状も漢方治療で10分以内に効果があれば、片頭痛による随伴症状と確定できます。片頭痛の随伴症状として閃輝暗点(せんきあんてん)が有名ですが、せいぜい2-3割の患者さんに認める程度で、私が診断を下す際には参考程度にしています。

ちょっと変わった症状、特にお子さんに多い症状として、腹痛も時折遭遇する症状です。「腹部片頭痛」と言う疾患があるのですが、頭痛と腹痛が同時に起こるタイプ、腹痛のみのタイプがあります。頭痛と腹痛が同時に起これば「腹部片頭痛」を疑うことは容易ですが、頭痛がなく腹痛だけのタイプでは診断がとても難しいです。お子さんの腹痛の約80%は便秘が原因と言われるくらいですから。が、これまた漢方治療を用いることで、腹痛だけの「腹部片頭痛」も簡単に診断ができます。すなわち、漢方治療で腹痛が直ぐに消失すれば、便秘ではなく片頭痛による症状と言うことになります。

最後に、「前庭性片頭痛」についても説明をしておきましょう。これは、めまいを伴った片頭痛で、最近成人にとても増えている印象があります。やはり気圧変動の影響を強く受けているのだと推量しています。頭部MRI検査やめまい外来などで異常なしとされている方で、めまい、肩こり、首凝りがある方は頭痛外来の受診が必要かもしれません。

片頭痛には色々な種類があります。肩こりから来る頭痛だから片頭痛ではない、とは限りません。長く続く肩こりや首凝り、周期的にだるくなりあくびが出る、腹痛やめまいが起こる症状も、片頭痛の可能性があります。漫然と頭痛に対して鎮痛剤を飲むのではなく、漢方薬治療(五苓散と呉茱萸湯の同時内服)をお試しすることをお勧めします。当院では漢方薬治療以外にも、西洋薬として塩酸ロメリジン、トリプタン(点鼻、内服、注射剤)なども併用して、「ハイブリッド頭痛治療」を実践しています。片頭痛は漢方薬で治そう、が当院のモットーですが、ベストな治療を目指して今後も治療法を進化させていく所存です。

漢方薬と西洋薬を併用した片頭痛に対する
ハイブリッド治療について

(2019年10月15日掲載)

当院では漢方薬治療を中心とした片頭痛治療を実施し、国際頭痛学会、日本頭痛学会、日本救急医学会、日本小児科学会、日本小児神経学会、日本東洋医学会などで発表しています。
漢方薬はすぐに効果が出ないと思っている方が医療関係者ですら多いのですが、約85%の患者さんが内服後5分から10分程度で頭痛が改善します。
今秋、日本頭痛学会誌46巻に、上記タイトルで私の論文が掲載されました。以下、要旨をお伝えしたいと思います。

片頭痛は近年、毎年毎年増え続けています。今年は20年ぶりに片頭痛発作を起こした80歳代、90歳代の患者さんもお見えになりました。おそらく、最近の天候不順、気圧や気温の急激な変化が原因ではないかと推量しています。最年少は3歳2か月。4歳、5歳は15名程度、6歳以上成人まではかなり数多く拝見しています。今年の片頭痛の特徴として、小児では腹部片頭痛が、中学生以上成人ではめまいを伴う前庭性片頭痛が多い印象を持ちました。やはり気圧変化が大きいためでしょうか?

片頭痛は通常の痛み止め(解熱鎮痛剤)では殆ど効果がないため、西洋薬ではトリプタンと言う特殊な薬を使用します。が、トリプタンは原則12歳以上にしか使用できず、妊婦さんには禁忌、授乳中の患者さんにも制限がありほぼ使用できないことが多いのです。その点、漢方薬は幼少期、青年期、妊娠中・授乳中にも使用できることから、当院では第一選択薬として漢方薬を使用しています。
頭痛治療の漢方で有名な薬は2つあり、一つは五苓散(ごれいさん)、もう一つは呉茱萸湯(ごしゅゆとう)です。通常は東洋医学的診察によって、どちらかを使用するというやり方が一般的なのですが、単剤での有効率は50%程度で、効く時にはすごく効くが、効かない時には全く効かないと言う印象です。詳細な経緯は私の論文をご覧頂くとして、結論を申し上げますと、当院では「五苓散と呉茱萸湯の同時投与」と言う独自の治療法を用いています。内服方法にも少しコツがあるので、市販の漢方薬をそのまま内服されても効果は限定的だと思いますが、西洋薬での治療に行き詰った時、痛み止めで胃痛や嘔気が出る方には、漢方薬治療が特にお勧めです。

当然ながら、漢方薬治療のみでは発作が完全には抑えきれない片頭痛患者さんも15%程度いらっしゃいます。その際には、西洋薬の片頭痛予防薬(塩酸ロメリジン)を併用したり、トリプタン(内服薬、点鼻薬に加えて自己注射製剤もあります)製剤を併用することで良好な結果を得ています。塩酸ロメリジンは小学生にも使用できる比較的安全性の高い薬ですが、予防効果は弱いと多くの専門医は注目していませんが、漢方薬と併用することで予防効果も漢方薬の薬効も顕著に改善するため、両者による相乗効果があると私は感じています。
小児期・青年期の片頭痛予防に頻用されている2種類の西洋薬は、2017年に発表されたCHAMP試験の結果から、副作用が多く有用ではないことが示されました。特に小児期・青年期の片頭痛治療には漢方薬と塩酸ロメリジンの組み合わせがベストと私は考えています。

薬物使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)も最近大きな問題になっていますが、漢方薬は使用すればするほど体質改善が進み発作の頻度が徐々に減ってゆくことが多いので、患者さんが発作時に躊躇なく内服できることも大きなメリットです。その証拠に、漢方薬で薬物使用過多に陥った患者さんを今まで私は一人も拝見した経験がありません。

片頭痛はかなり辛い病気ですが、医療機関で頭部CT検査や頭部MRI検査を受け異常がないと言われ痛み止めを漫然と内服している方、どうせ治らないと思って諦めている方、痛み止めを連日乱用している方、数日間寝込んでしまって不登校や出社困難となっている方、あきらめずに漢方治療を試して頂きたいと思っています。当院のモットーは、「頭痛は鎮痛剤ではなく漢方薬で治そう」です。頭痛で悩んでいらっしゃる数多くの患者さんが早く元気を取り戻して頂けるように、当院も年々治療法を進化させてゆく所存です。


 

頭痛は鎮痛剤ではなく漢方薬で治そう

はじめに

当院では100種類以上の漢方薬を使用して、様々な疾患の治療をしています。
その中で頭痛は多くの患者さんを悩ませ、重症の頭痛の場合には医者をも悩ます、ありふれていながら厄介な病気です。
漢方薬は長期間飲まなければ効かないと誤解されている方が多いのですが、当院では急性頭痛にも漢方薬を頻用し、多くは10分以内、時には5分以内に頭痛が完全に消失するほど著効する例もあります。
この漢方薬の特性を利用した当院での取り組みを、2016年9月にスコットランドで開催される第5回ヨーロッパ頭痛・片頭痛・国際学会(EHMTIC)で発表することになりました。
以下に概略をお示しします。

対象・方法

急性の頭痛を訴え平成27年1月5日より同年10月31日までに当院を外来受診した患者さんの内、巣症状、髄膜刺激症状、頻回な嘔吐、38度以上の発熱を伴う症例は除外し、残った101例を対象としました。対象年齢7歳から74歳、女性/男性=78/23、対象者全員に漢方薬を経口的に投与し、内服10分後の頭痛の程度、NRS(numerical rating scale;一番痛い時を10として、痛み無しを0としたスコア)、を聴取しました。

結果

漢方薬治療によって85例(84.2%)に頭痛軽減の効果を認めました。
NRS 0-3/10;40例(40/85;47.1%)
NRS 4-5/10;33例(33/85;38.8%)
NRS 6-8/10;12例(12/85;14.1%)
NRS 6-8/10の12例には初回投与から15分後に同量の漢方薬を再投与したところ、全例でNRSは2/10以下となりました。
一方、無効例(n=16)には下記疾患が認められました。
椎骨動脈解離(脳の血管が裂けている状態)、脳腫瘍(鞍上部腫瘍)、頸椎椎間板ヘルニア、副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)、無菌性髄膜炎など。

おわりに

急性頭痛に対しての漢方治療は85%に迫る有効性を認めました。反応が乏しい場合には追加投与も有効であり、2回の投与にも反応を認めない場合には、頭部MRI&MRA検査、時には脳神経外科での髄液検査も必要です。頭痛には解熱鎮痛薬と言う方が多いと思いますが、片頭痛には効果がない上に薬物乱用性頭痛へのリスクもあり、当院では頭痛こそ漢方薬治療で、とお勧めしています。