悪意のある書き込みへの反論と溶連菌感染症、百日咳、新型コロナウィルス感染症に関する一考

当院では、感冒症状をカゼと決めつけずに原因の検索をきちんとするようにしています。飛沫飛散のリスクがあっても、インフルエンザ検査に限らず、溶連菌感染症、RSウィルス感染症(RSV)、ヒトメタニューモウィルス感染症(hMPV)の迅速検査を実施しているのはそのためです。場合によっては(患者さんの希望ではなく院長が必要と判断した症例のみ)新型コロナウィルスのPCR検査も実施しています。百日咳に関しても、カゼと放置されてかなり日本中に蔓延していることを、日米の呼吸器学会や日本感染症学会、日本小児科学会などでも危機感を持って発表を続け論文も掲載しています。
最近の世の中は感情的、短絡的、かつ一方的に白黒をつける傾向が多く、誤った自己主張を他者に押し付ける輩が増えていると感じます。当院は当院を気に入って来院されている地元の方が多いので、悪意のある書き込みに怯むことはありませんが、一方的で暴力的な書き込みには、こちらの論拠を提示・反論をし、その輩たちの猛省を促したいと思います。

先ずは、今話題の新型コロナウィルス感染症のPCR検査についてです。色々な臨床検査でトップクラスの精度を誇るこの検査ですら、陽性率はせいぜい70%程度です。つまり、新型コロナ感染症に罹患していても陰性と判定される患者さんが一定数いると言うことで、どんな疾患であっても一発で100%診断できる検査はない、と言うことになります。
陰性と判定されても、コロナ感染を強く疑う場合には繰り返しPCR検査を行って、数回目でやっと陽性というケースも数多く報告されています。結局のところ、何をもってコロナ感染症を疑うかと言うと、強い倦怠感や関節痛、味覚障害・嗅覚障害などの臨床症状、胸部CT画像や血液検査などの補助検査が重要となります。すなわち、病気を疑うのは、先ずは症状、そして検査の組み合わせが大切で、一つの結果にとらわれないことが重要で、独りよがりの誤診を招く結果は避けたいものです。
PCR検査陰性は、「コロナウィルス感染症ではない」と言う意味ではなく、「人に移すほどウィルスが唾液中や咽頭部に存在しない」と言うことを表します。つまり、PCR検査をもってしても、「コロナでない証明;陰性証明」にはなりません。PCR陽性の時のみ、新型コロナ感染症と確定診断を得られます。

次に、溶連菌感染症やインフルエンザの迅速検査についてお話します。インフルエンザの迅速検査の場合には、製造会社ごとのキットによる精度の差はさほど大きくはありません。発症後6時間以上経過していれば90-95%程度の陽性率は確保されています。が、それでも偽陰性(インフルエンザなのに判定は陰性と出てしまう)のケースは多々あり、この時にも「陰性証明」にはなり得ません。そのため、翌日にウィルスが増殖するのを待って再度インフルエンザ検査を実施すると言うことが通常されています。
ところが、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)の流行時、ウィルスの増殖スピードが遅いために、発症48時間以上経過しないとインフルエンザ迅速検査陽性にならないことが問題視され、WHO(世界保健機関)では、症状でインフルエンザを疑ったら、迅速検査をせずに(迅速検査が陰性であっても)、直ちにインフルエンザの治療(タミフルなどの投与)をするように勧告しています。治療の遅れが肺炎や脳炎合併により死亡率を上げてしまうからです。
当院には発症3時間以上経過していれば検査可能なインフルエンザ迅速器機もありますが、ワクチン接種を受けている患者さんの場合には偽陰性となる可能性も残ります(ワクチンの効果でウィルスの増殖スピードが抑えられるため)。結局、最後は症状が大切ということになります。
インフルエンザやコロナウィルス感染症はウィルスの疾患で、抗生物質は効きません。インフルエンザはタミフルやイナビルなどの抗ウィルス薬がありますが、検査陰性で抗ウィルス薬の副作用が懸念される場合には、漢方薬の治療も選択できます。特に、麻黄湯はタミフルと同等に効く、という論文もあり、内服方法のコツ(1日3回分服では効きません)はありますが、当院では漢方治療も多用しています。インフルエンザ検査陰性でアセトアミノフェンの解熱鎮痛剤のみ処方されるケースも多く見受けられますが、解熱剤は6時間熱を下げるだけで現病を治すことは出来ないばかりか、解熱によって却って免疫力が低下してしまう恐れがあります。新型コロナウィルス感染症、元々はカゼのウィルスですから、重症化する前の病初期には漢方治療は効果があると私は考え、実際に疑い症例に投与しています。

最後に溶連菌感染症の迅速検査についてです。溶連菌迅速検査はたくさんの会社から販売されていますが、インフルエンザキットと異なり精度が高い製品は2社のみです。日本の保険医療では、検査代金は保険で決められていますから、普通は安いキットを使われるケースが多いと思います。当院では精度の高い、その分、値段も高い米国製のキットを使用しています。今年の4月以降6歳未満の検査費用は保険請求出来なくなっているので、溶連菌迅速検査に限らず、インフルエンザ、RSV、hMPV、果ては血液検査も当院持ちで実施しています。全ては正しい診断へ導くために、例え当院からの持ち出しになっても必要なお金はきちんと掛ける方針で当院は運営しています。
溶連菌迅速検査が陰性の場合、確認すべきはキットの精度が高い製品か否か、咽頭部を擦過(綿棒でこする)時に口蓋垂の裏をちゃんと擦過しているか否かがとても重要です。
そして、当院では陰性だった場合、抗生剤は不要なので漢方薬治療を実施しています。
ただし、臨床症状から強く溶連菌感染症を疑う場合には、患者さんに説明し抗生剤を処方します。その時に、「治療的診断」の説明をしています。すなわち、溶連菌感染症の場合、抗生剤投与24時間以内に直ぐに症状が改善するため、翌日直ぐに症状が良くなったら迅速検査は陰性でも溶連菌であった可能性が高い、と言うことです。普通のカゼは1日では治りませんから。

今回の論旨は以下の通りです。
① 100%確実に1回で診断できる検査方法は存在しないこと(PCR検査ですら100%には遠く及ばない)。
② インフルエンザや溶連菌感染症の迅速検査も同様に限界があること。
③ 正しい診断に導く大きなヒントは、問診から得られる臨床症状であること。
④ 溶連菌感染症や百日咳など、細菌性の感染症に対しては、必要・十分な量の抗生物質を必要期間きちんと投与すること。
⑤ ウィルス感染症を疑う場合には、抗生剤は使用せず積極的に漢方薬治療を実施すること。

以上、当院で実践している治療の信念と概要です。